第一夜
知れば知るほど奥深いワインの世界。その魅力の一端を、ワイン片手にひもといてみよう、というこの座談会。記念すべき第一回のテーマは「お寿司とワイン」。
世界有数の漁場・三陸を擁する岩手県は、海の幸の宝庫。おいしいお寿司も手軽に食べられる土地柄ですが、「ワインとの組み合わせ」って、あまり聞いたことがないような……?
その謎、無事に解くことができるでしょうか?
1
マス・ベルトランブリュット・ナチュール・レゼルヴァ バルマ NV Mas BertranBrut Nature Reserva Balma NV
限りなくナチュラルなスタイルにこだわったカヴァ
2
ドメーヌ・モロー=ノーデ シャブリ 2016 Domaine Moreau Naude Chablis 2016
ドーヴィサに師事するシャブリのニュージェネレーション
3
フォン・ウィニング リースリング トロッケン 2016 Von Winnin Riesling Trocken Q.b.A. 2016
古くて新しいファルツの辛口リースリング
4
フリードリッヒ・ベッカー グラウブルグンダー・カルクメルゲル 2016 Friedrich Becker Grauerburgunder Kalkmergel 2016
ピノのトップ生産者が造る、たっぷり旨味のグリ系白ワイン
5
ドメーヌ・ガングランジェ ヴァン・ダルザス ピノ・ノワール 2005 Domaine Ginglinger Vin d'Alsace Pinot Noir 2005
シュレールの従兄弟が造るアルザス自然派ピノのオールド
山田酒店社長
日本ソムリエ協会認定ソムリエ。某ビールメーカーで修行後、半ば強制的にワインを勉強しハマる。地元情報誌にてワイン企画ページに定期的に出演。大橋健一MWに師事。
デギュステヴァン店長
入社後、配送担当、ワイン仕入担当兼営業担当を経て2017年よりデギュステヴァン店長。真面目でちょっとシャイなキャラクターはコアなファンを虜に...。ソムリエ見習い中。
デギュステヴァンソムリエ
日本ソムリエ協会認定ソムリエ。 女性によるワインコンペSAKURAアワード審査員や、市内の専門学校でワインサービスの講師を担当。当店のマダム的な存在。
webデザイナー
東京と岩手の二拠点生活。デギュステヴァンご近所の小型商業施設「十三日」を運営。ワイン超初心者。失敗しないように自分好みのワインを知りたいと思っている。
11本目 スパークリングワイン「brut nature reserve balma」
浅野 この座談会のお題が「お寿司とワイン」って知ったとき、びっくりしました。今まで組み合わせようと思ったことがなかったから。
社長 いやいや、お寿司とワイン、実は合うんですよ! 今日選んだ5本でいうと、特にこの泡(スパークリングワイン)はオールマイティ。比較的ネタを選ばないんじゃないかな。とはいえ、今日のネタの中だと、数の子はちょっと合わないかも。
聖子 私もそう思う。今まで魚卵とワインは「合う」と思ったことがない。
浅野 え〜、試す前からわかっちゃうの? じゃあ、まずはその数の子で答え合わせしてみましょう!(笑)
(食べてみる)
社長 うん、想像通り(笑)。ペアリングで考えると「なし」だね。
聖子 思ったよりは悪くないけど……。でもやっぱり、香りが鼻から抜けたときに生臭さを感じますね。
浅野 うーん、そう? 美味しい数の子だしは悪くない気がするけどなあ。そもそも「合わない」ってどういう感じなのかな。
社長 ワインと合わせることでネガティブな要素が引き出されてしまう、とでもいうのかな。今食べた数の子でいえば、ワインと一緒に味わうことで生臭さが出て来た、みたいな。逆に「合う」と、お互いのいいところがより引き立つんだよね。
浅野 うーん、わかるような、わからないような……。じゃあこのワインに一番合うのはどれだと思います? 私の予想は……穴子かな!
一同 ……。
浅野 揃って反応悪い!(笑)
社長 これは水っぽいというか、ミネラル質な味わいが強いので、同じようにミネラルを含んでいる貝類が合うと思う。あとは、ガリもいけそう。
浅野 (ガリを食べる)うん、ほんとだ! 今、口の中でふわっと味が変化した。なんか、甘くなったような。
聖子 よりおいしくなる感じがした?
浅野 そう! 味わいの広がりが加速したみたい。もしかしてこれが「合う」ってことなのかな〜! それを踏まえると……さっきの数の子は確かに、味がどこかに消えちゃったイメージ。
店長 このワイン、ガリと一緒だとすいすい飲めますね……。
聖子 おお〜、シャイな店長もコメントせずにいられないおいしさ!
浅野 じゃあ、このスパークリングに一番合うのは、ガリってことにしましょう(笑)
22本目 シャブリ「MOREAU—NEUDET」
社長 2本目はシャブリでいきましょう。実は今日初めて飲むワインなんだけど…(一口含んで)これ、けっこう樽がかかってるな。
浅野 「樽がかかる」???
聖子 樽の香りをいかしているワインのことを、そう表現したりするの。
社長 典型的なシャブリは硬質的というか、シャープな印象があるんだけど、これはちょっと違うタイプ。香りもふくよかで、味わい深いし、ちょっとオイリーな感じもある。あとハービーだね。ちょっと薬草みたいな香りがして…。
聖子 確かに、和風というか、オリエンタルなニュアンスがありますね。
浅野 オイリー? ハービー? オリエンタル?一口飲んだだけでそんなにいっぱい味のニュアンスを見つけられるの? 私には全然わからん…。
社長
これだと白身、エビあたりが合いそう。
(食べてみる)
社長 あ、タイは合うね! 合うよ。
聖子 うん、わさびもアクセントになっていいですね。
浅野 ほんとだ。これはおいし〜い!
社長 エビもいいね。エビの濃厚な味わいをワインが引き立てている。
浅野 あ、エビのほうが好きかも! エビがよりおいしく変化したというか…うまく表現できないけど、とにかくおいしい。
店長 「マリアージュ」ですね。
聖子 店長、今ちょっとドヤ顔だったよね。
一同 (笑)。
聖子 比べると、タイは「溶け込む」感じ。エビは「引き立つ」って感じがしたなあ。
浅野 他のシャブリも、タイやエビと合わせやすいのかな?
社長 いや、そうとは限らないかな。シャブリは日本のレストランには大抵置いてあるポピュラーなワインで、「シャブリには牡蠣、和食」っていう定石みたいのがあるけれど、実際はそうでもなかったりする。
浅野 そうなんだ! でもよく耳にする組み合わせですよね。
社長 例えば「グラン・クリュ(特級畑)」「プルミエ・クリュ(1級畑)」と言われるものは「豪華にできちゃってる」んだよね。
聖子 料理を「引き立てる」のではなく、ワインそのものが主役になっちゃうタイプね。
社長 日本料理は特に味わいが繊細なので、あんまり主張の強いワインだと負けちゃう。
浅野 なるほど。「いいワイン」が必ずしも食事にマッチするとは限らないんだ。
33本目 リースリング「VON WINNNING RIESLING TROCKEN」
社長 これは、いかにもリースリングらしい風味だね。我々はよく「菩提樹の花」っていう表現を使ったりするんだけどね。でも思ったほど香りが強くないな。リースリングって芳香が豊かなものが多いんだけど。
浅野 菩提樹の花……?どんな香りか想像できない〜。
聖子 これは私、ウニに合うかな〜と思うんだよね。
社長 あ、確かにウニと合うね。(食べてみる)……ん? いや、これウニっていうよりさ……
社長&聖子 すし飯と合う!
聖子 やっぱり! 私もそう思った!
浅野 すごい、今2人の声が揃ってたよ(笑)
社長 すし飯って、酸味もだけど甘みもあるじゃない。このリースリングも甘いニュアンスがあるから、それで合うんじゃないかな。だとすると、比較的どのネタでも相性がよさそう。
浅野 あ、エビもおいしい!さっきのシャブリと合わせたときとはまた違う味わい。
社長 これは貝類も合うし、ホヤもいけるよ。
浅野 え〜、ホヤも! ホヤって海の香りが強いから、ワインと合わない感じがするけど……意外!
聖子 でも数の子は、ますます生臭さが残る感じ。やっぱ魚卵は難しいね〜。
浅野 ここまで試してみて率直に思ったのは「ごはんとワインってアリなんだ」ってこと。想像していたよりイヤじゃなかった。
聖子 ごはんというより、すし飯だからいいのかもね。すし飯とワインがそれぞれ持ってる「酸」が惹かれ合うというかね。
社長 今日用意したワインはどれも酸が強いタイプじゃないから、マイルドな酸味のすし飯とのバランスがいいのかもね。もしワインの酸が強めのときは、醤油にレモンやかぼす、すだちなんかを絞ると合わせやすくなると思うよ。ただし、赤身には合わないと思うけど。
浅野 なるほど、双方の酸味のバランスを整えるといいんだ。おもしろい!
社長 このリースリングも、より香りが強かったり、よりドライなタイプだったらここまで合わなかったかも。
聖子 じゃあちょっと、お店にあるほかのリースリングで試してみましょうか。 (ほかのリースリングを試飲)
店長 うーん、確かに。こっちだと、エビの甘さがしつこく感じるかな。少なくとも引き立ててはいない。
浅野 ほんとだ。同じリースリングなのに、味の印象がだいぶ違いますね。いや〜、奥が深いな〜。
44本目 ピノ・グリ「GRAUER BURGUNDER」
社長 では4本目に参りましょう。これはロゼなんだけど、少し褐色っぽいでしょ? 「ピノ・グリ」っていうぶどうの品種で、グリとは灰色という意味なんです。
浅野 ちょっとあっさりした風味というか、 あまり主張しない感じのワインですね。
社長 これは香りと味わいが控えめだから、和食に合いそうだね。昔はロゼというと甘いのが主流だったから「初心者が飲むものでしょ」って誤解されがちだけど、本当は個性豊かで通好みのワインも多いんだよ。
浅野 このワインとウニ、相性がいい気がする。おいしい〜。
社長 うーん、鉄火巻きはちょっと生臭くなるかなあ。
聖子 あ、ほんと。ワインとマグロの味が別々に分かれる感じがする。
店長 でも、すし飯にはすごく合いますね。
聖子 じゃあ玉子はどうだろう?(食べてみて)…あ、これはだめだ(笑)
社長 この玉子、味付けがけっこう甘めだから、甘いワインなら合うかもな…。でも、これはワインより緑茶と合わせたほうがいいね。
一同 確かに(笑)
浅野 うーん。合ってるのかな〜、合ってないのかな〜。やっぱよくわかんないなあ。
社長 私や平山はいろんなワインを飲んでいるから「これとこれは合う」って味わう前から想像が働くけど、飲んだことがない人がその味を想像することは難しいよね。だからこれは経験値によるところが大きい。
浅野 なるほど、まずはいろんなワインを飲んでみることが大事なのか。
社長 俺だってもともとはビール党で、ワインの「わ」の字も知らなかったよ。
聖子 へえ〜、社長にもそんな頃があったのね〜!
社長 ワインは知識があったほうがより楽しめるけど、それが全てじゃないしね。あまり気負わず「これはおいしい」「これはそうでもない」っていう感覚を気軽に楽しめればいいと思うよ。
聖子 そして、その「楽しさ」のお手伝いをするのが、私たちの仕事ですね。
浅野 頼もしい〜!
55本目 ピノ・ノワール「vin d'alsace Jean Ginglinger」
社長 さあ、残るはこの赤ワイン。2005年のワインだから13年前か。けっこう熟成が入っているので…枯れてきている、とでもいうのかな。
浅野 それは、飲み頃を逃したということですか?
社長 いやいや、そうではなく。フレッシュな果実味というよりは、円熟味というかね。例えるなら……妙齢の淑女?
聖子 ピチピチのお嬢ではなく、落ち着きのあるマダム。まさに、私みたいな(笑)
浅野 あ〜、なるほど(笑)
社長 やっとこのワインの本質が現れてきた、という感じがあるね。若いワインって、多くは紫がかった赤色をしていて、熟成が進むとオレンジやレンガ色に変化していくんだけど、このワインはもともと淡いニュアンスのある色だったのが、熟成してなんともいえない色味になっている。
浅野 ほんとに綺麗な色ですね! そして香りもすごい。芳醇っていう感じ。あ、でも意外と飲み口はやさしいですね。
社長 これは穴子が合うよ、きっと。
浅野
(食べてみる)
わ!!ほんとだ。穴子の味が濃厚になった! この感じが「合う」ってことなのかな? 覚えていたいけど、きっと明日になったら忘れちゃうな〜(笑)
聖子 鉄をなんとなく感じるから、鉄分が含まれているものも絶対合うと思う。マグロとか。
社長
では、ここでとっておきの裏技を……。
(醤油の小皿にワインを注ぐ)
一同 えー!醤油にワイン!?
社長 さあ、これで赤身を食べてみましょう。たぶん、普通の醤油で食べるよりもワインと合うと思うよ。
聖子 あ、確かに。お醤油の角がとれて、よりしっくりくる感じ。「つなぎ役」になっている。
店長 うん……これは衝撃だ。
社長 いけるでしょ?
浅野 このワイン醤油、おいしい〜!!家でもやってみたい!
聖子 でも結構難易度高いですよね、これは。「どの赤ワインもOK」っていうものじゃない。
社長 そうだね、カベルネ(品種)のワインとかはダメ。熟したニュアンスだったり、「うすうま系」の品種や作り方のワインなら、うまくいく可能性は高い。
浅野 うーむ、これも経験値がなせる技なのか〜。
6謎解きを終えて
社長 さて、今日は「お寿司とワイン」をテーマに謎解きをしてみましたが、どうでした?
浅野 すごく楽しかった! お寿司とワインって、こんなに合うんだって、意外でした。穴子とピノ・ノワール。ピノ・グリとウニ、シャブリとエビ……。おいしい組み合わせがたくさあったけど、一番の衝撃はやっぱり「赤ワイン醤油」!
社長 お寿司とワインの単純なマッチングだけでなく、醤油にレモンやワインを加えてバランスをとる、っていうテクニック、おもしろいでしょ。
店長 やっぱり、スパークリングとガリの相性のよさが印象的でした。寿司じゃないけど(笑)
聖子 お刺身とお寿司、つまりすし飯があるかないかでもだいぶ違うんだなあ、というのを改めて実感しました。お刺身よりお寿司のほうがワインに合う!
浅野 「合わない」っていうのも含めて楽しかったな〜。友達とのホームパーティーでこれをやったら盛り上がりそう! そういうときのワイン選びのコツってありますか?
社長 最初は知識のある人からアドバイスをもらったほうがいいと思うよ。そうやって少しずつワインの世界を広げて経験を積むうちに、自分で「合う、合わない」の見当がつけられるようになる。
浅野 なるほど〜。確かに初心者がギャンブル的に選ぶより、プロに見立ててもらったほうがいいですね。
社長 うちのスタッフは豊富な経験や知識があるだけでなく、セオリーにとらわれず自由にワインを楽しめる提案をしていきたいなと思っています。だから、そういうときはぜひ相談に来て(笑)。
浅野 私、今日だけでだいぶワインの世界が広がった気がする。ワインってこんなに個性があるんだとか、こんな味わい方があるんだなあとか、すごく楽しくて、もっとワインのことが知りたくなった!
聖子 わ〜、そう言ってもらえるとうれしい〜!